誰が・どこで・何を言ったか
2026年8月20日のABEMA Prime。ひろゆき氏がMCを務め、ゲストにつくば市長の五十嵐立青氏、早稲田大学デモクラシー創造研究所事務局長の島田光喜氏、哲学研究者の森脇透青氏らが並んだ。
これまでこの構想は、仕掛ける側の言葉でしか語られてこなかった。公約を守らせる、破ったら給与を差し押さえる——その対象は現職を含む首長である。ところがその首長本人がどう受け止めるかは、誰も聞いていなかった。
この回が新しいのは、そこである。縛られる側が、逃げずに答えている。
市長は「反対」ではなく「もっと厳しくしろ」と返した
五十嵐氏の第一声は、拒絶ではなかった。
これ問題意識ひろゆきさんと全く一緒で、基本多くの人が政治家クソじゃんって思っているわけですよね
そのうえで市長が示したのは、自分がすでに実行している仕組みだった。就任1期目に82項目、現在は110項目の公約すべてにロードマップを作り、中間目標・政策内容・数値目標(KPI)・年度別の工程・必要予算を明記して公表する。進捗は毎年更新し、遅れているのか手つかずなのかまで出す。
議論が動いたのは、市長が逆に条件を吊り上げたところである。
ぜひこのひろゆき新党は、僕は議会に否決されるっていうのは実現できてないのと同じだろうぐらい、ひろゆきさんには言ってもらいたいなと思っている
ひろゆき氏の設計は「首長権限で実現できるものは実現、それ以外は予算案・条例案の提出まで」である。市長はそれを手ぬるいと見た。自分たちの仕事の本体は議会と交渉して同意を取りつけることであり、それができないのは首長としての能力の問題だ、という立場である。
これに対するひろゆき氏の答えは、意外にも譲歩ではなく設計思想の説明だった。
- 本人の努力ではどうにもならない部分まで確約させると、公正証書を作ること自体が難しくなる
- めちゃくちゃ頑張ってダメだった人と、最初からやらなかった人が同じ扱いになる
- 政党として大きくなれば条件はどんどん厳しくしていく。ただし最初の段階は「本人がやる気になればできること」に限る
森脇氏はこのやり取りを見て、「結構現実的な落とし所に持ってきている」と評した。当初の「公約が達成されなかったら全部嘘」という勢いから、だいぶ絞り込まれたという読みである。
断念した公約を、市長はどう扱ったか
罰則論の弱点は、「できなかった」をどう裁くかにある。五十嵐氏は自分の失敗例を出した。
給食レストランという構想があった。学校で給食を作り、地域の人も一緒に食べられて、加工場も併設して地場野菜の消費も上げる。市長の評価は「とてもいい政策だと思っていた」。だが事業費が10億円を超えたため、つくば市の制度で外部評価にかけたところ、専門家から3つの機能それぞれについて厳しい意見が出た。
市長は先週、この公約の断念を議会で説明し、平日と週末の2回、小学校に出向いて市民の質疑を受けたという。
政治家が公約を軽く見すぎで、公約を何か断念するんであれば、ちゃんとそれを、言い訳かもしれないけども、ある意味対話のきっかけかもしれない
公約集には備考欄があり、前年の目標をどういう事情で変更したかを毎年書き残す。「言ったのに言ってなかったことにする」ことを防ぐための欄である。
説明責任か、罰則か
森脇氏の立場は一貫して、罰則よりプロセスの公開だった。何をもって達成・未達とするかは本来もっと複雑で、機械的に切ると「無難な公約しか掲げなくなる」「達成したのに暮らしは良くならない」という空回りが起きる、という懸念である。
島田氏はマニフェスト評価の実務から、アウトプットとアウトカムの紐付けを論点に置いた。保育所を3つ増やしたはアウトプット、待機児童ゼロはアウトカム。数値目標を置くこと自体はいいが、その上位にある「どういう街にしたいか」と結びついていなければ、点数は良いのに実感は悪い、という状態になる。
ひろゆき氏の反論は、性善説と性悪説の対立として整理された。
やれないんだったら罰則ありますよっていう、どちらかというと脅すぐらいの方向じゃないともう進まないんじゃないか
五十嵐氏のように自ら公開している首長がいることは認めたうえで、「社会の人はほとんど知らない」とも述べている。公約を守る政治家も、守らない政治家も、どちらも有権者に見えていない。その非対称を壊すのが罰則だ、という主張である。
議論の着地点は、罰則ではなかった
終盤で話は罰則から離れた。ひろゆき氏が語ったのは、出生率を上げる効果が論文レベルで確認されている政策を自治体ごとに試し、効果が出たものを横に広げるという構想である。3人目の子への給付、住居手当で部屋を広くする補助——効果が数値で出なければ次の選挙で撤廃する。
五十嵐氏はこれに「めちゃくちゃ共感します」と応じ、証拠に基づく政策形成(EBPM)を進める首長のグループを他の自治体と作っていることを明かした。そのうえで、新党の柱に入れてほしい政策として不登校の子どもへの支援を挙げている。
- つくば市は全校に校内フリースクールを設置し、民間フリースクール支援やスクールソーシャルワーカーにも投資している
- 市単体で約5億円。文部科学省のいじめ・不登校予算は国全体で90数億円
- 全国が右肩上がりで増えるなか、つくば市では不登校が減少している
この取り組みは市の公表資料でも確認できる。つくば市は市立の小学校・中学校・義務教育学校の全50校に校内フリースクールを設置し、専任の支援員と補助員を配置している。民間のフリースクールを使う家庭には利用料を月2万円まで補助し、運営側への補助と組み合わせている。なお金額(市の約5億円、国の90数億円)は市長が番組内で挙げた数字である。
森脇氏はこのやり取りを受けて、議論の構図をこう読み替えた。
公約を罰則化するっていうのは、おそらくこのひろゆき泉新党の一番初めの、広めるための入り口で、本当のところ出生率を上げるとか、今の不登校の話とか、そういったことに取り組んでいく
運営者コメント
罰則案そのものより、市長が出した対案のほうが強い。「提出までで十分」と設計した側に対して、現職が「否決されたら未達と言え」と迫る構図は、これまでの報道にはなかった。
五十嵐氏が自分の退職金を市民のインターネット投票にかけ、マニフェストの進捗を読ませたうえで採点してもらった話も出ている。結果は62点で、本人は「自分で提案して退職金減ってんじゃねえか」と言われたと苦笑していた。罰則を外から課すのか、自分で自分に課すのか——同じ問題意識が、二つの方角から来ている。
一方で、この回でひろゆき氏の説明が一段柔らかくなった点は記録しておきたい。「公約が達成されなかったら全部嘘」から「本人がやる気になればできることに限る」へ、要求水準は下がっている。10月に発表される公約が、市長の言う「否決されたら未達」に近いのか、提出止まりなのか。そこが次の焦点になる。
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